題名はまだ決めていないです。
それは一つのアクセサリーから始まった。
「真澄君んんんんんんん、今日も今日とて麗しいねっ君の妹背の青砥が今来たよおうっ!ああんっ熱烈な歓迎ぐわふっ」
シフォン生地の姫袖が薫風に揺れ巻き髪が乱れぬよう片手で抑えたまま、真澄の右腕が青砥の鳩尾に当たりそのまま青砥が倒れるのを厚底の靴で押さえつけた真澄は柳眉を歪め桃色の艶やかな唇からドスの利いた声を出す。
「不快指数が今80になりました」
「怒った顔も可愛いね」
ワンピースのリボンには意思が宿っていない筈であるが、真澄のバックリボンがゆらりと揺れ、背後にいた真実が不機嫌そうにゼブラのボールペンをパチンと鳴らすと顎に軽く当てて言葉を吐き捨てた。
「真澄、そのまま潰しなさい」
「はい、姉様」
「待て待て待て待てええええいいいいっ!!!真澄君冷静になってくれたまえ、いい?潰れて将来困るのは・・・」
恥らうように頬を染め青砥は口元に右手人差し指第二間接を曲げた状態で押し当てると目を伏せた。
「真澄君、君だよ?」
「・・・星々の砕け散る様を見るか?」
「わああああ、やめっだふっ」
ゴオン、と軽い金属音がして一時気を失った青砥の頭に手をやっている青年に破顔した真澄は足はそのままに青年に抱きつき、頬を寄せる。
「芦刈先輩!お久しぶりです、いつ戻ったんですか?」
微笑み真澄の身体を軽く抱き寄せている芦刈の横からアルミ缶で青砥を殴った床波が真澄の頬に触れるか触れないかの位置でリップ音をさせ、背後の真実に軽く手を振ると床波の変わりに口を開く。
「今日だよ」
「また貴方達一緒だったの?」
「まあね、でも真実も真澄と一緒じゃないか」
「私達は血の繋がりがあるから。と、大野君ご苦労様」
扉が開き顔を出した大野は芦刈と床波に会釈し真実にコンビニの袋を見せた。
「此方も奢って頂いてますから。リクエストのシーフードパスタサラダが無かったので海老とほうれん草のバジルソース生パスタサラダにしました。真澄がちぎりロールハムたまごにイチゴチョコサンド、紫の野菜ジュース、床波先輩が広島風お好み焼き、煮玉子おむすび、から揚げ棒、よもぎ大福でいいですよね・・・青砥先輩死んでます?」
大野の声に青砥の耳がピクリと動き、急に立ち上がると右手は腰に手を当てて左手は奇天烈な服装のマントらしきものを翻す。
「わーはははははは、俺参上!ドゥワフっ」
アルミ缶の第二波が来た。
「床波ィっ痛いじゃないかっ」
「これぐらいじゃどうともないだろうお前は。というかその口を一度閉じないと話が進まないだろう?有効手段を活用したまでだ」
「乱暴な・・・私とて人間なのだぞ」
「・・・」
「なんだねその沈黙は」
嫌そうな顔をした床波の肩を軽く叩き、芦刈が床波の後ろから青砥にやあ、と口角を上げると青砥は目を細め床波を押しのけ芦刈と向き合う。
「もういいのかね?」
「ああ、心配かけたね。頭は大丈夫?」
後頭部をさすりながら青砥は床波を一瞥し大仰な溜息をついてみせる。
「君の猛犬は調教が済んでいないようだね」
「相変わらず口が悪いね。さて、今から昼食だよね僕達も一緒にいいかな?」
「勿論だとも座りたまえ」
椅子を引いて芦刈を促すと当然のように隣に床波が座り、その逆に青砥が座ると青砥は大野から食事を受け取っている真澄を呼び膝を叩く。
「真澄君はココにガホっ」
背中に入った蹴りは見事で、芦刈の真正面にちゃっかり座った大野はその様を見ながらポツリ、と。
「段々容赦無くなってきましたね」
「当然の報いよ」
笑う真実の横顔を見ながら、「段々容赦無くなってきましたね、真実先輩に似て」と言葉を続けなくてよかったと無表情のまま安堵した大野は騒がしい外野を他所におにぎりのパッケージをあけた。