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昂真秀
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見習トゥルバトール
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自己紹介:
昔は錬金術師を志していたが、現在は吟遊詩人を夢見ている。
最近は『思考するハムスター』『黒髪ロングの狸』等々好き勝手に呼ばれております。
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歴史系怪談です。読んでも良い方は本文はこちら を押して下さい。完結していません。

注意:史実が少し混じっていても大部分は創作ですのでご注意下さい

注意の注意 別に有馬晴純氏が嫌いなわけでも島原が嫌いなわけでもありません。

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 あれは思えば妙な夜であった、と歯の抜けた口で幾度目か同じ話を繰り返す。
ご隠居様はまたあの話か、と呆れ立つ者、仕方が無いと聞く体制に入るもの様々ではあるが、必ず夜半に酒がある状態で風の強い日に話すあの話を孫も息子も耳半分でご隠居の近くに膝を寄せた。
そして今夜も

よおく、聞いておれよ、といつもの前置きから始まった。



確かそれは御土御門天皇が崩御なされた話を風の便りに聞いた頃であったか。

数人の見知った者と見知らぬ者が小屋に集まり外の嵐を待つままに誰彼ともなく酒を出し銘々に踊るもの口にする物を作る者、
何度となく外の様子を見に行き頭を掻きながら溜息をつく者、
ままにしていたがやがて静かになり身体を横たえ寝息や鼾が聞こえ初めて随分と経っただろうか。

起きているのは四人、火炉の近くに三人戸の近くに一人座りぽつりぽつりと話をしていた。

やれ大内領内では相変わらず下々には鐚銭が出回りよるぞ、オヤケアカハチが尚真王に討たれたそうな、会所に飾る唐物が良いものが手に入った、大宰府天満宮を焼きよった大友はいずれ滅びる、とまあ喋々喃々と話している。

一人は少し離れているとはいえ話に混ざっているのだが、火炉の側でむっつりと浅黒い顔を陰鬱に俯けたままの男はおう、と濁りがかかった声で相槌を打つだけで己は何も話さぬ。

ぎょろりとした目が特徴的で太い指先を器用そうに動かし荒気酒を手酌で注ぐと唇を濡らして身体を揺らす。

どれほどに話し込んだのであろうか。

先日不知火が見えたので漁に行けず魚が膳に上がらなかった事を愚痴った男の話が丁度終えた頃、丁度荒気酒が無くなり酒々を荷物の中から取り出すと男の杯に注ぐ。

おお、すまぬの、とやや嬉しそうに受ける男に、いや貴重な酒を飲ませてもろた礼じゃあ、薩摩の酒はきっついのお、この酒が水のように思うと軽口を叩く。
なんじゃあ、なら飲まぬのか、いやいや飲もう飲もう、と濁酒を飲む干す様を剛毅よのと三人で持て囃す。どうやらこの男酒がこの上なく好物らしい。

この男、そうだ仮に小と呼んでおこう。背は小さく頭は生臭坊主のようである。
小はひゅうと女の叫び声のような風音と混じるように息を潜めて喋りだす。



ほれ、ここの話じゃ、ご存知かな?
この地は回りは豪族ばかりであったが公領であっての、まあ今は有馬氏が易々と旧高来郡を手に入れたと言われておるがそこにはこんな話があってな。

有馬晴純が旧高来郡へ入った時の事、名主(ミョウシュ)はおらんでな、どうやら有馬氏の来るのを聞いて逃げたらしい、だがその娘が気丈にも残っておって有馬晴純の入るのを小川一つへだてて手を広げ来てくれるなと言う。

有馬晴純は小娘が何をと苦々しく思い腰の物を抜き退かぬと切ると言えば娘は笑い千早を風に遊ばせるまま胸元に手をやり赤く染めた唇でやってみよと剛毅に胸を叩いた。

だが覚えておれ、この胸貫けばゆくゆくは血が河を染め上げ一帯が屍で埋もれよう。そしてどのように足掻き嘆いても其の方の一族はそなたの死を前にして権は落ちるであろうぞ。
遠くからの異教がこの地を蝕み多くの永い長い苦しみと悲しみの涙、苦難の末の報われぬ血が流れつづけるぞ、良いか。

黙れと有馬晴純は三度言うたそうな。

娘は高らかに笑い、一度天を指差しそして地を指差し次に晴純氏を指差して、恐ろしいか、と問う。晴純氏が憎らしいわと答えるとならば帰れと言い放った瞬間言うか小娘がと晴純氏は白刃を煌かせ小川をひと飛び若く血の気の多い晴純氏は感情そのまま娘に一太刀浴びせ、娘の首が小川の辺に蹴鞠の如く転がった。

晴純氏は馬上のままこれよりこの地は有馬のものとなる、何ぞ言うものはこれへ、と雄々しく抜刀したまま言い放つと民は晴純氏の行く道をあけ、そのまま馬の後ろ足で娘の身体を踏みつけ晴純氏は進んでいく。
逢魔が時の日に照らされ血が爛々と光を受けながら小川に流れ込んでいるのを見ながら体を奮わせた従者が、あれは・・・といえば見せしめに丁度良いとそのままにしておいた。

そのまま名主の館に入り、従順な民からの品を受け一行は館で高鼾をかき一晩明けた頃に従者が先日の場所へと足を運ぶとそこには首も身体も何も無く、ただ血だけが流れつづけている。

気味が悪いと急ぎ主の元へ戻り見た事柄を報告すれば何を馬鹿な事をと一笑にふされ再度見て参れと言い遣った従者はもう一人の従者を連れ小川へ行く。
血は何処からとも無く嘲笑うかのように流れてるままだ。
二人は震え再度懇々と切々と恐ろしさを訴えるとわかったと晴純氏は手が空いたら見に行こうぞと言い、そのまま日差しは南へそして西へと傾いてゆく、気が付けは先日と同じ頃合に丁度手が空いたので晴純氏は従者と共に例の場所へ向かう。

そうするとそこには従者の言った通り流れ続けるだけの血があり、晴純氏はどうしたものかと地元の禰宜の下へと相談しに行った。

するとその社に使える巫女でもあったその娘の死を伏目で受け止め、
夜に流れる血は暗がりに澱んで咲くのです、と禰宜は呟くのを晴純氏が聞き逃さず眉を潜めると、禰宜はいずれは身を結ぶであろう女の見で生まれたものの命潰えたからにはせめてその身で花を咲かせる他にはありますまい。

飄々とした口ぶりが腹立たしく、その小川で禰宜の腕も切りつければ禰宜はあっけなく転がりもう一太刀振り上げた直後にごろりと首が転がった。

だれぞ娘の身体を持ち帰った者がいる筈、探し出して川へ投げ入れよ。
禰宜の身体を川へ転がしながら笑う若くも剛毅な声が響き民に恐怖を与えたという。

その事があったからか、旧高来郡の民は従順で旧高来郡を足がかりに着々と半島を手に入れていった晴純氏は今ではもうほぼその手中に収めておられる。

知っておったか、と黒式尉の面のような顔をして小が三人の一人一人の顔をのぞきこみ、のう、のう、としわがれた喉を奮わせた。

知らなんだ、とそれぞれに声を上げ小を見ると、そうかそうかと頷くばかりで先刻の饒舌さから濁酒を飲む前の無口な顔に戻り、再度杯を傾け始める。

風が鳴っているのを気味悪く思い身体を震わせた戸の近くに居た男が三人の元へ近寄り濁酒を黙って引寄せると一気に飲み干した。

息を吐き目元を染めたまま小へお前様、とそれは何処で聞いた話じゃ、それともお前様が見た事か、と問えばにやあ、と口元を歪めさあてねえ、と身体を揺らす。

ただのう、お前さんが言うた通り大友はのう、

そう言葉を続ける前にゆらりゆらりと揺れた体が煙のように消えていった。

なんと、と驚き目を擦り当たりを見渡し外にも出たが外にあるのは強い風ばかり、何もありはしなかった。地味な木賊色の木綿の着物の男は何処にもおらず、三人は首を傾げ、おかしな事もあるものじゃ、と瞑々頭を掻いてその日は眠りについたそうな。






さて、朝になれば風も治まり船も出せるようになった、珠光の草庵茶の為の唐物を扱うゆえに大事に大事に運んだ。だがそれからずっとその小に聞いた話が耳にこびりついて離れなんだ。
ほれ、最後に言うておった大内様の事いづれ滅びるぞ。

そういって黒式尉の面のような顔をしてご隠居は孫、息子の顔をのぞきこみ、のう、のう、としわがれた喉を奮わせた。

次の年ご隠居は夏を待たずして静かに息を引取り、そして八月、大内義隆が果てた話は一帯に響き渡る。

大内義隆の死により明との勘合貿易は潰え、その九年前に新しい武器と異教が入り込みこの地を話通り戦乱へと向かわせていった。

多くの商人大名が異教に利益からかそれとも純真にそのぱーどれの教えからなのか、洗礼を受ける中、家中ではならぬ、という強い掟のまま時は流れる。

御世も変わり人も変わった中、あの頃幼き頃に聞いた話を思い出し、顎を掻きながらさて、と一人の男は黒式尉の面のような顔をしてしわがれた喉を奮わせた。

「あの者はなんであったのであろうのう、のう」

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