「髪を伸ばしなさい。」
そういって皺がれた手で首筋を這い、掻き分けた首筋に男は唇を落とした。
唇は首筋を伝い、そのまま鎖骨を噛むようにして言葉を紡ぐ。
「その方がきっと似合う。」
夜を駆けて、乱れる長い髪をそのままに口から溢れ出しそうな心臓を手で押さえて裸足の足にささる小石をかまいもせず、目指す。
上へ、上へ、上へ。
下限の月の薄暗い光に影を落として、そのまま裂かれた衣服を自身の手で葬り去る。
髪は乱れて獣のようだ。
息苦しいのを誤魔化すように首に手をかけて、そのまま宙に身体を遊ばせた。
視界の隅に誰かの強い意志の伸びる手。
手はいとも容易く全てを奪い去り、やがてはその手に繋がれて逝く事を思い知った。
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