APHといわれるジャンルです。嫌いな人はスルー。
絶対スルー
さらに言うなれば
味覚音痴の紅茶好きが我等が祖国様を想ってウジウジ泣く話です。
はい、ウゼーとか思ったら回れ右。
読んでやろうとも!ハッハァ!僕はヒーローだからね!
と高らかに言えるのならば
下から入りたまへ(苦情も批判も受け付けないさっ!だって私はチキンだから)
夜霧がマホガニーの家具の向こうの薄い硝子の向こうにゆっくりと流れ、どんよりとした空にミルク色の雲が見える。
夜の住人は去り、朝露を求めて小さな客人が手塩にかけた庭を泳ぐ頃合だ。イギリスは冷め切った紅茶を飲み干し、遠い寝台を思い出しつつ机上を片付け軽く背伸びをする。
勢いをつけ過ぎたせいか肘があたり積み上げた書類の一部がずれてとある署名が目に入った。
ゴルドニ少将の署名である。
内容を思い出すと憂鬱な気分は更に落ち込み、ため息をついた瞬間軽い、そう実に軽い音のノック音がした。
「誰だ」
聞き覚えのあるノック音にまさか、そんなわけは、と言い訳をしつつ、もう一度ノック音が二回。
律儀な程の丁寧さをもって。
嗚呼、これは
「入れ」
重い扉が開かれると其処には最後に会ったあの険しい表情とは無縁の穏やかと静けさを内包したぬばたまの黒髪、黒曜石の煌きを湖の貴婦人が住まう場所よりも深い所で揺れる水のように美しい、会った瞬間に目が離せない、とすら思った日本が静かな佇まいのまま深く一礼をした。
「ご無沙汰をしておりました、お元気ですか?」
これは夢か幻か。
敵である今会える筈も無く、昨今のドイツの攻撃により少しみっともない顔になっている己を恥じるよりも先にこみ上げる感情が現実的な思考を押し流す。
「ああ、元気だお前はどうだ?」
少しかすれた声で問えばさあ、と首をかしげた日本の前髪が揺れ、懐かしい気持ちになりつつまあ座れよ、お茶ぐらいしかないけど飲むだろう?と問えば愛想の良い返事が返り殊更丁寧に淹れた紅茶を受け取った日本は一口飲んだ後嗚呼美味しいですねえ、やはりイギリスさんの紅茶は良いものです、随分と久しぶりなものですから、と微笑んだ。
ああそうだろう、俺のところも随分なものだがお前の所も酷いと聞く。と言えばちらりと日本の視線が動き、はみ出た書類の署名を目に留め、イギリスさんの所の提出した作戦が其方の意味で言えば順調ですから、と事も無げに言う。
ひやり、と日本の目線から書類を隠すように動けば共に見た桜に微笑んだ声とは思えぬ程さめた笑い声。
「東京をガス攻撃すれば、と非公式に発表もなさいましたし、ゴルドニ少将はアメリカさんとの討議の上東京都の化学兵器の効果を見るために採用すべしともおっしゃいましたね。マスタードガス、ホドゲンガス、焼夷弾いずれかは甚大にかつ広範囲に被害を及ぼすだろうとおっしゃいました。効率的な案と思います、それに・・・流石アメリカさんの育て親です、Tube Alloysはアメリカさんが引き継いだそうではありませんか。対ドイツとおっしゃっていますが、ねえ?」
うふふふふ、と紅い紅い唇からもれるは花の鬼の狂気の沙汰。
だからこそ妖しくも美しいのであるが、イギリスは見とれた桜花を紫陽花を思い日本、日本と手を差し伸べればそれは鋭く叩き落された。
「日本、嗚呼、日本」
その笑いは沈み行く艦隊の上で凛と白い海軍服で立つあの冷たい顔と同じであった。
オイルに塗れ味方が海に呑まれるあの惨劇の中でただただ美しかったあの顔と。それはあの春の日、そして息を切らして上気した頬が鮮やかな夜、どれとも違うが確かに目を離すことの出来ないあの顔が。
「イギリスさん、あなたはもうお選びになられた。
私とアメリカさんと並べてあなたはもう選んでしまったのでしょう?
覆水盆に還らずです」
「あの時は、あの時は・・・」
「わかっておられた、その上であなたはこの選択をなさったのです、違いますか?」
「俺は、それでもお前を!」
イギリスの言葉を聴かず日本は背を向けて去ってゆく。
嗚呼それでもお前を欲しているというのに!
叫べど叫べど無常に扉は閉まり、愚か者のように強く床をたたいた瞬間、カシャンと音がした。
はた、と見れば机上に顔を押し付け書類の上に残り少なかった冷め切った紅茶が染みを作っている。
痛む体を起こし外を見れば夜明けはまだ遠い、ああそうか、と額に手をやり涙を流しながらイギリスは机上よりその書類をたたき落とした。
書類の染みの部分に記載されいる「日本に原爆を投下する件について」という題があり、そこを強く靴裏で踏みしめて再度笑いをかみ殺し、イギリスは泣いた。
夜明けは遠い
PR