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プロフィール
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昂真秀
性別:
女性
職業:
見習トゥルバトール
趣味:
妄想
自己紹介:
昔は錬金術師を志していたが、現在は吟遊詩人を夢見ている。
最近は『思考するハムスター』『黒髪ロングの狸』等々好き勝手に呼ばれております。
Blong Pet
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いつものおりじなる、蕗田嬢との連作作品短編です。
あっちかきこっちかきーとふらふら気味で申し訳ない。

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クラスメイトには若い女の囲われていい身分だね、さぞかし夜もお盛んだろうとからかわれた事があるが、(例の一件により結構というか、一生残る記憶を植え付けられた彼らは首がもげる勢いで横に振っている。弓道部員の事件に関わった同級生は軽く白い目を剥いたまま口パクで俺はそんな事思ってないからな!そう・・・お二人にお伝えくださいと命乞いの如く言っている。)それはありえない。

二人は基本的に男が好きではないのだ。
男性蔑視というわけではない。単純に、という感じだ。
八雲は男ではない、丁稚という生き物として見られているので問題はないそうで(蒼からは弟のようなもの、若しくは生徒として見られているのかもしれない。)少し腕力があるのが役に立つ、程度であろう。
まあ・・・月の場合八雲に腕力があろうがなかろうが罰あたりな程にこの世の者ではないものに色々力仕事をさせている。
流石に、古いなんと表したらいいかわからない錦を纏った武人がリビングの家具を動かしていたのには驚いたが。
(それがどれほど日常茶飯事かといえば、狩衣姿の丸々した公家が電球を変えているのを見た事があるぐらい。)

さて今日は日曜日で天気もいい。
中庭で箒を持って盛りを過ぎた紅葉の葉をはいて上をみれば、右の月の部屋はあいた窓からカーテンがひらめいてなんとも気持ちよさそうだ。
窓から流れる篳篥の音色に合わせて手を動かしながら、左の蒼の部屋を見れば、二間続の部屋の防音の為の二重窓は開かれることは少なく、一室の障子窓に映る影でようやく蒼がいるのだとわかる。
もう一部屋の窓には厚いモスグリーンのビロードのカーテンがひかれたままで様子すらうかがうことが難しい。月の部屋は掃除もあって何度も入っていて、そのシンプルながらも棚にある珍しい物を眺めて苦笑しながら説明をうけたものだが、ここへ来て暫くになるが、蒼の部屋へは入ったことがない。興味がないわけではないけれど、月にやんわりと直接そう言ったわけではないが入らないようにと諭されたのもある。
小夜鳴鳥の骨董品の修繕等も行うから様々な機材があるからだろうか、貴重な物が多いからだろうか、二三週間に一度開けられた窓から聞こえる楽器の音色を聞きながら自室の窓からぼんやりと考える。

あの二人は秘密が多い。

今日もそうだ。もう蒼の顔を5日以上も見ていない。
蒼の部屋には簡易キッチンバスもあるが、一階に降りてこないのだ。
何故5日とわかるかというと、夜中に音がしたのだ、何かが落ちる音と、うめくような声、階段にぶつかる音、急ぎ足の足音に強い衣擦れ。
叫ぶ寸前の嗚咽。
深夜の事でうろ覚えであり、八雲本人も半分寝た状態だったので、なんとも言い難いが、奇妙なそんな音を聞いた。
八雲の部屋は二人の部屋とは少し離れた一階の二間続きの部屋を貰っている。
客間であったのだろう、簡易キッチンバスがついており、プライバシーも確りと考慮されている部屋に通された喜びの記憶はまだ新しいが同時にこの店、いや家というか二人に関する秘密は日々重なるばかり。
この家は大きく八雲が入ったことの無い部屋も多い。

大抵の事には肝要な八雲も流石に気になって、月に蒼さんどうしたんでしょうか、と言えばふ、と白い顔で微笑まれただけで暗にそれ以上問うなという月の圧力に口を閉ざしたままだ。
食事は月が運んでいるらしく、月が手ずから作っているのを見ると、それはいつも多彩な器がならぶこの家の食事らしからぬ雑炊であった。

掻き集めた落ち葉で焼き芋を作り、熱い内にと月の部屋の扉をノックすれば、ゴブラン織りのショールを肩にかけ、シンプルなハイネックのワンピースを身に纏った月が扉をあける。

「夕飯にはまだ早いんじゃないの?」

首を傾げる月ににっこりと八雲は笑う。

「いえ、お八つに焼き芋をと思いまして。焼きあがったのでどうかなと。」

「いいわね。じゃあ私がほうじ茶をいれてあげましょう。」

「恐縮です。」

「なんのなんの。」

笑いながら階段を下りてダイニングに皿に盛られた焼き芋に頬をほころばせた月はご機嫌でほうじ茶をいれる。
香ばしいお茶を目の前に出されて馴染んだ味と、秋の味覚を味わう。
縁側に盆を置いて二人でひらひらと舞う紅葉を見ながら、八雲は月のショールをはじめて見るショールだなと見つめていればこれ?と月がショールを指差した。

「蒼のルーマニアのお土産よ。」

「ああ道理で。月さんの趣味とは違うなあと思っていたんです。」

「まあ私じゃあこれは買わないわね。それにしても美味しいわ。」

「いつもの八百屋さんのお薦めだったんですよ。こんなに美味しいから蒼さんにも食べさせてあげたいですね。」

「そうね・・・少し煮た状態なら食べれるかもしれない。」

ぼんやりと言った月の言葉に八雲が眉を顰める。

「ぐあい悪いんですか?」

失言だった、という軽い後悔の色を浮かばせつつ月が軽く首を傾けて秘密、と言うと立ち上がり、台所へと向かう後姿に八雲は踏み込めないな、と確信をした。
実はこんな状態になるのは初めてじゃない。
最初はどうしたらいいかわからなかった八雲だが、普段は愛想もよく親切な蒼は突然何処かへ行くか閉じこもってしまう。
何度目かのその時に流石に心配になって、蒼の部屋の前に行って食事を置いて扉をノックしていると月が険しい表情でやってきて、二度としないでと恐い顔で言われたのだ。
その時の顔は得体の知れぬ顔であった、そう、連れられて行った能の恋の重荷のあの能面のような。



それから二日後まだ蒼には会えないままで、なんとしたものかと学校から帰ってリビングに入れば、そこには真っ白な髪の若草色の直衣を着た玲瓏な貴人が中庭に立っており、哀しそうに落ちる紅葉を手に持った螺鈿の箱に乗せていた。

目元涼しく色は梔子の如き白い頬。
唇には寒椿とそれはこの世の者が持てる秀麗さとは逸脱していた。

目を反らす事が出来ず、痺れたようにその場で立ち尽くしている八雲の方を舞を舞うようにゆっくりと此方を向いた貴人は動かぬ白雪の面のようにただ八雲を見ている。

ぞ、と冷たい氷の中に閉じ込められた心境のまま凛と響いた鈴の音で八雲は思考に一筋の線が走るのを感じ、ここにいてはいけない、と唐突に思い足よ動け、この貴人から目を離せと強く念じればゆうらりと景色が変わり、そこは切り立った崖の上、びょうびょうと鳴る風に身を任せて荒れ狂り渦巻く波間へ身を投げる貴人の姿があった。

あ、と差し伸べた手を掴まれて、次の瞬間強く頬を叩かれる。

痛い、と目を見開けばそこには怒ったような月の顔があり何があったのかわからぬまましまったと八雲は息を呑む。

「馬鹿者。」

月の後ろの背には十六夜の月が輝いており、そこでその夜の記憶は途絶えた。





二日後。
帰宅した八雲はリビングにスーツ姿の穏やかそうな中年男性の姿を見つけてゆっくりと頭を下げると向こうも気が付きやあ八雲君と手を軽く振る。

彼は何処の所属かはしらないが編集者で、時折こうして用事が無い時でも美味しい菓子などをもってここへやってくるのだ。
彼の選ぶ菓子は月の喜ぶ所であり、出向いてもいない時が多い蒼に変わって月が応対する事も多いので二人は世間話をしている事もしばしば。
今日はあたりを見渡しても月の姿は見えず、一人彼は座っている。
手元には紙の束があり、今日は原稿を取りに来たのかと納得した。

「近江さん。今お茶出しますね。」

近江兼光、月が蒼って近江さんの事まず名前で気に入ったのよ、と笑ってた近江さんは穏やかで八雲の持っている一般的な編集者のイメージとはかけ離れている、そう、彼は原稿を急かしたりはしない。ふらり、と立ち寄って美味しい栗金団をみつけたものですからと皺の多い顔に更に皺を増やして差し出すのだ。
一度近江にその事を言えば近江は少し考えて「急かす方がいい人もいますが、蒼さんはそうではありませんし、締切を破らない有難い人でもありますからねえ。」と少し白いものが混じった頭をかいた。

「おや、すみませんね、八雲君。実は先刻戴いた月さんの八女茶も美味しかったのですがいかんせん月さんはお出かけになってしまって少し喉が渇いていたのですよ。」

「結構長くいるんですね、じゃあ蒼さんは?」

「蒼先生にはまだお会いしていませんが、月さんから言付けを頂戴しまして。」

分厚い手にしている原稿を今読んでいるところなのだろう。
そうか、最近の篭りはこの原稿を書いていたのかと推察しながらお茶を出せば、嬉しそうに近江がお茶を飲む。

「そういえば八雲君は蒼先生の作品を読んだ事はありますか?僕はね八雲君、蒼先生の編集者である前に彼女のファンなんですよ。」

頬を高潮させて大切そうに原稿を撫でる近江はお恥ずかしながら、と口元を緩める。

「少し拝見させて戴いてどうしても直ぐに読みたくなってしまいまして、月さんに無理いってしまったここで読んでいました。
一回読んで今は三回目。八雲君はもう読まれましたか?」

「いいえ、実は蒼さんの本は読んだ事がないんです、作家名も知らないぐらいで。」

興奮気味の近江は少し肩を落としつつも八雲君、と強く名前を呼ぶ。

「今回は蒼先生から見て欲しい物があると連絡を戴いて来たのですが、これは一人の公家の話で、政治闘争に敗れ儚くなるまでの話なのですが、そう言葉にすればそれだけなのですが本当にまるで見てきたかのような見事な出来でしてね。」

見てきたかのような。
八雲は何かひっかかった。


「その公家がまた美しいのですよ。憂いをたたえた哀しげな瞳。
 仕草は天女の舞の如く、頬は白く伏せた瞳は朝露に塗れた芙蓉のよう。」

浮かれたような近江の背の向こうで夕日の光を受けて輝いたものが八雲の目に止まる。
それは黒塗り螺鈿の箱であった。

上には紅葉の絵がある。


「彼は恋文を抱えて大切にそれを渡した筈だったのですが、それが実は擦り返られて陰謀の・・・」


近江の声が遠くに聞こえる。

貴人の抱えた螺鈿の箱、白い面から血の涙が滴り落ちる幻夢を今目の前で見るが如く蘇ってきた。

嗚呼そうか。

語り終えた近江はお茶を飲んで、上機嫌のまま帰っていくのを見送った八雲はそっとリビングの椅子に腰を降ろしてぼんやりと落ちる紅葉を見守っているとやがて玄関から音がして、濃い赤のワンピースに黒いコートを着た月が帰ってきた。

「何してるの明かりもつけないで。」

ぱちり、と音をたてて部屋が明るくなる。

すっかりと暗くなっていた室内が昼のようになり、ぼんやりとした顔のまま八雲が月を見れば月は片眉を上げた。

「顔が阿呆になってるわよ。」

「月さん。蒼さんはあれを見てあれを書いていたんですか?」

八雲の額を指ではじこうとしていた月の動きが止まり、からかう表情が静かにあの奇妙な面の顔になっていく。


「書くから蒼さんはああなるんですか?それとも、だから書かなければいけないんですか?」


月は表情を変えず、目線をあの螺鈿の箱へと向けて、口角を上げる。


「私はあれを売るだけよ。」

背を向けようとした月に八雲そっと笑い。

「月さんはうそつきですね。凄く優しい嘘つきだ。」

月は振り返り片眉を上げた。


「夕飯、今日は私が作ってあげるわ。」

きっと明日には蒼も同じ食卓に座るだろうという予感を胸に八雲は夕飯の支度をする月を手伝う為に腰を上げた。
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