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あ、超ブラックジョークです。そして食前食中食後は読まない方が・・・
姉妹の悪戯
此処に来て三ヶ月。
店の経営者である姉妹は多少の難はあれど基本的に食事は美味しいし、衣食住に事欠かない生活というのはとても有り難い。
だがひとつだけ。
青少年ならば誰でも思う。
肉が食べたい。
八雲は育ち盛りだ、元気な青少年だ、だからこそ焼肉ステーキ等々。
肉の誘惑に駆られるのだ。同居の姉妹は極端に肉を口にしない。
間違いなく食事は美味しいのだがそろそろ八雲のリミッターが外れそうだったのだ、しかし居候の立場でそれを言うのも・・・と思っていたが肉、肉、肉、と頭の中で回り理性がログアウトしそうな中つい食事中に口から零れ出た一言に姉妹は敏感に反応した。
「肉が食べたい・・・」
その言葉に真っ先に反応したのは蒼で、ゆっくりと箸を置き、八雲君、と低い声を出す。
「それは今日の私の作った食事に対する批判?それとも単純に食べたいというだけ?」
真っ黒な笑顔の蒼に首が引きちぎれる程の勢いで誤解です、違います、という事を主張する八雲をじっと見つめる両の目。
「蒼」
ちょいちょいと手招きして黒い笑みを浮かべていた蒼の肩を持ち、耳元で何やら小声で話す月の顔はこの上なく輝いている。嗚呼嫌な予感
にんまりと笑った月と蒼の二人を見て、似てないなあと思ったのは間違いだった、この二人はやはり双子だったのだと実感しつつ、八雲は苦笑いを返した。
次の日
八雲の食事にカツレツが載っているのを見て、二人を見るとにこにこと微笑んだまま。
朝からカツレツ、スープ、パンという食事を平らげて、昼の弁当はステーキ定食のようなもの。夜はしゃぶしゃぶ。
そんな肉尽くしの日々が続き(因みに姉妹の食事はいつも通り)やがて一週間もそのままだったある日の夕食時。
本日は佐賀牛のステーキにサラダにビーフシチュー、クロワッサンだ。
甘く赤いノンアルコールの葡萄ジュースがキラキラしている。
昨日は蒼自信作のアイスバイン。
さて、二人の前にはムニエルがあり、蒼は悠々と白い貴婦人を味わいながら赤い唇で微笑む。
此処連日の食事は今まで自分が食べてきたもの、無論この家に着てから口にしたのはとても美味しくだがそれなりに質素だと思っていたが、急に高級な食材が並ぶものだから経済状況が気にかかる。
いくら商売に無知な八雲でもこの店が繁盛しているかしていないかぐらいはわかるからだ。決して裕福な店ではないと思う。
ミネラルウォーターを口にした月はふふ、と笑い蒼と目線を合わせて双子が同じ表情をした。
「八雲君、一昨日食べたウルストは美味しかった?」
「ええ、とても。あんなに美味しいのは初めてでした」
「それは良かった。そうそう、こんな諺を知っている?ソーセージの中身は神と肉屋の亭主だけが知っているって」
銀のナイフを八雲に向けて月は愉快そうに蒼とシンメトリーを演じる。
「第一次世界大戦の終わった頃貧しかったドイツのハノーヴァーのフエラルストラッセ通り肉屋にはいつも新鮮で美味しい肉が並んでいたの。その当時ドイツは戦争で負けてね、物資や食材も中々手に入らない、大変な時期だった。肉なんて貴重品。しかも手に入ったとしても高価でしかも鮮度は低い。白ソーセージの中には朝に作って午前中までには食べてしまわなければいけないような種類すらあるっていうのにね」
ざくり、と月は茸のサラダをフォークに刺す。
蒼はくすくすと笑いながらワインを継ぎ足してあのウルストは絶品だった、と相の手を入れる。
「店主の名前はフリッツ・ハ-ルマン。その店はとても繁盛して・・・当然よね。人々は闇市で顔の効く男なのだと噂しあっていたらしいの。
で、1924年。ライネ川で遊んでいた子どもが発見した人骨を皮切りに次々と発見された大量の人間の骨やその残骸。元よりちょっと噂のあったハールマンが怪しいとされてね、で真相はハールマンは美少年がお好きだったようで足のつかない浮浪者の美少年に声をかけては家に連れ込んで性的行為に及び後はバラして服飾品は売捌き肉は・・・店頭に並んだの。
途中から相方となったハンス・グランスという16歳の美少年と共謀して更に被害を拡大させていったというからもう小説のようなものね。結局1918年から1924年迄で40人以上の下は10歳から上は23歳迄殺害して、正確な人数は本人にも不明らしいのだけれど24件の殺人事件により立件、死刑宣告されギロチンで終幕。今でもハノーヴァーには菜食主義者が多いそうよ・・・とまあ、こういう事があったのだけれど知っている?ちなみに・・・今日のその肉・・・意外と安かったのよ」
うふふ、と微笑む顔に八雲はステーキを食べる手を止めた。
「八雲君食欲無いの?」
「蒼さん・・・その・・・」
「そういえばこんな話も90年代の米国ミルウォーキーのスラム街のオックスフォード・アパートメント213号室にジェフリー・ダーマーの神殿と呼ばれた場所があって、1991年黒人男性が必死の形相でそこから走り出て助けを求めて来たそうで。その要請を受けて警察がその場所に踏み込んだ所ポリ容器に入った塩酸漬けの胴体やスープに浮かぶ脳みそ、鍋には切り取った男性性器・・・なんだか昔のドラマのアナザヘブンの話みたいね、で、冷蔵庫には人肉と調味料だけがずらり・・・米国といえばもう一人有名な人がいた、そうそうアルバート・フィッシュ。満月の夜に主に犯行を行った事から満月の狂人という名でも呼ばれるそうだけれど。捕まった時彼は体内に29本釘が体内にあったそうで、強烈なマゾヒズムがあったようだけれど、それ以上にカニバリズムが強かったみたい。彼は少女がお好みだったようで全米を放浪しながら優しい言葉で誘い込み、首を絞めて滴る血を飲み干し死体をトロトロのシチューにして食べたそうだけれど。彼派少女の味を尋ねられた時 It was goodと言ったそうだけれど。本人の自供では1910年から1934迄に400人を殺害したと言っていたらしいのだけれど、現在でもその正確な人数は不明という事らしいねえ」
完全に食事をする手を止めた八雲に月がにっこりと。
「食べないの?」
「口にあわなかった?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ちょっと食欲が・・・」
あれが二人なりのブラックジョークだったのか、それともあまり肉を食べない二人が八雲にもその食生活に慣れてもらおうという強烈な手段だったのかは未だに不明だが、少なくともこの家が貧しいという言葉とはかけ離れているのが今ではわかる。
そして質素だと思っていた食事は意外とそうでもなかったり。
・・・現在八雲は肉はあまり得意ではない。
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