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プロフィール
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昂真秀
性別:
女性
職業:
見習トゥルバトール
趣味:
妄想
自己紹介:
昔は錬金術師を志していたが、現在は吟遊詩人を夢見ている。
最近は『思考するハムスター』『黒髪ロングの狸』等々好き勝手に呼ばれております。
Blong Pet
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オリジナルで蕗田嬢と連作の夜鳴の番外編。
とんでもないギャグです。

よろしい方はどうぞ。本当にどうしようもない話です。

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「チェストーーーーーーーおおおおお!!!!」

学生服のままよった商店街で、既に顔馴染の八百屋と豆腐屋にて買い物をし、更におまけまでつけてもらった紙袋を落とさず握り締めたままの八雲は目の前を人が飛んで行くのをただ見守った。


さて、今日は夕飯どうしようか。
弁当に入っていた筑前煮は蒼の作で薄味で美味しかったが、あれは昨日の夕食のあまりであるから、今日は煮物以外にしよう。
月も蒼も魚が好きだし、蒼は酒の肴にサラダを食べる程野菜が好きだから食卓に野菜は欠かせない。
今日の料理当番の八雲は頭を悩ませつつ、商店街に寄って買い物をして店の目の前まで来た所で冒頭の叫び声である。

声は。蒼と月は双子でよく声も似ているが、蒼は声楽もやっているのでよく声が響きわたるので、ご近所様に迷惑極まりない程に響いた声は蒼だと八雲は気付いたが目の前の常識はずれの光景にただ荷物を落とさなかった己を誉めた。

てゆうか何で薩摩武士、という突っ込みはさておき、煉瓦作りの塀にぶつかったのは紺色のスーツの男性で、見事な三回転半の後石畳に転がる。
更にその上に男性の持ち物と思われるジェラルミンケースが投げつけられて、その方向を見れば眉間にきつい皺を寄せた蒼が立っており、黒に山吹色の矢絣の着物が乱れていた。

ここは常識的に男性に手を貸すのが善意ある人というものであるが、月の冷ややかな眼差しと切れたら手がつけられない蒼を知っている八雲は一般的な善意ある常識人の皮を捨てて肩で息をしている蒼に向かって微笑んだ。

「只今帰りました。」

そこ、咎める台詞は言うてくれるな。
善意な常識人であって腹が膨れるか。
一般人であることを守る事で雨風が防げるか。

一度体験した、己が絶対の庇護下にあるわけではないという思いは八雲をこれ以上なく図太くしている。あたりまえだ。蒼の台詞で言うなれば謝罪も微笑みも0円也。

「お帰りなさい。」









「で?家の前に転がってたブツはなんだったの?」

玄関で靴を脱いだ月のコートを受け取ってひとまずハンガーにかけている八雲は振り返り、食材に気をよくした蒼が八雲の食事当番を引き受けた為台所に立っている方を見れば、月はカウンターキッチンへと座り、お茶、と一言。
八雲が用意するよりも早く、鉄瓶に水をいれ火にかけた割烹着姿の蒼があはは、と笑う。
夕食まではまだ少々時間が早い為か、蒼は練り菓子を月の前に出し、しゅんしゅんと音を立てる鉄瓶の横で抹茶椀を二つ取り出しながら八雲の分も茶菓子を置き、手早い動作で抹茶をたてると二人の目の前に萩焼きの抹茶椀の中で鮮やかな抹茶が出される。
いただきます、と八雲が抹茶を飲んでいる横で機嫌よさそうに月もお茶を飲み、ふうと息を吐いて、にっこりと蒼、と呼ぶ。

「あー・・・・○○屋の外商の道明兼継さん。」

「誰それ。」

飲み終えた椀を回収し、再度夕食の仕込みをしながら蒼はほら、と指差す先にある李王朝時代の花台。

「あれを買ったのが○○屋、でもって、うちの商品の文鎮を買って、なおかつ月と私が展示されてた文机と花器を買った次の日に宅配を手配した人。」


蒼がそういった途端月の表情が硬くなり、ああ、と冷淡な声がした。

「どうしたんですか?」

八雲の疑問に蒼が苦笑いする。

「それがね、気に入って宅配を頼んだ品を摩り替えたのよ、私達がわからないだろうと思ってね、贋物に。しかもうちから買った商品をとんでもない程の吹っかけた値で販売していてね。しかも転売という事じゃなくて、道明さん個人の購入だったものだから、それはもう月が怒ってね。
そう、結局その文机と花器は返品して代金は返金してもらったのだけれど・・・月が交渉して。で、今日は普通にカタログ持って外商に来たのだけれどそれはもうしつこくて。うちの商品を貶したものだから頭にきちゃってね。」

「商品って何を?」

「先日のお詫びにお安くしますよって、掛け軸や毛皮やらを。」

月と蒼にそれをするなぞ阿呆だろうと八雲は思わず呆れ顔になった。
少なくとも、骨董屋に骨董を売り込む百貨店なぞ阿呆すぎる。
しかも月と蒼の目は独特で、カタログのみでの販売は受け付けないのはあたりまえというもの。

「しかも、返品した商品の変わりにって、無理やり商品を置いていこうとしたからこっちもムキになって押し問答になっちゃったの。
勿論百貨店の方にも電話をしたからもう帰っていると思うのだけれど。」

「蒼。あんな奴二度と敷居を跨がせないで頂戴。」

だん、とテーブルを拳で叩く月に勿論、と蒼は頷く。

といった次の瞬間、店の方ではなく、少し込み入った方にある小さ目の玄関のブザーが鳴り、久々に玄関のブザーの音を聞いたなと八雲が立ち上がる。

「僕出てきます。」

「よろしく。」

ひらひらと手を振る月といってらっしゃいと微笑む蒼に見送られて八雲は玄関の前でどちら様ですか、と言えば。


「○○屋の者ですが。」

今話題に上っていた百貨店の名前を告げられた。

「少々お待ちください。」

ひやりとした汗をかきながら、八雲が台所に戻れば、下ごしらえはすんだのか割烹着を脱いでいる最中の蒼と頬杖をついた月がいる。

「どうしたの八雲君?」

「あの・・・・○○屋の方がおみえのようなんですが・・・。」

めき、という音がしたのは八雲の気のせいだ、そうだきっと気のせいなのだ、絶対気のせいなのだ。

「お帰りいただきますか?」

「いきましょうか。」

微笑んで立ち上がった月のスカートのひるがえる様を見て、血は見たくないなあと思った八雲であったが・・・・。


からり、と開かれた玄関をあけた月の背中から見えるのは一重の目元涼しい美男子がモスグリーンのスーツを着て立っており、その後ろにはいかにもな中年男がいる。
あら、という蒼の声に知ってる人ですか?と問う前に月の少し高めの声がした。


「伊達さん!」

「こんばんは、夜分遅くに申し訳ありません。お久しぶりです月さん蒼さん。」

ゆるりと頭を下げる動作も美しく、月の最悪だった機嫌が一気に上昇するのを見て、八雲は月が男嫌いと思っていたので意外な気持ちでいると、蒼がこっそりと耳打ちする。

「伊達さんは呉服コーナーの嘱託で同じ茶道の門下生で人形作家。能も上手なの。月は男性があまり好きではないのだけれど、一芸に秀でている人は大好きだし、あの声にあの姿形でしょう?珍しく贔屓しているのよ。男性としてではないのだけれどね。」

「蒼さん。」

横にいた中年男性が月に手土産を渡す伊達の横からするり、と蒼に向かって頭を下げれば蒼は少し眉間に皺をよせて、何ですかと無愛想な声を出す。

「徳野さん、今度一切そちらとのお付き合いはしませんと申し上げましたが?」

「いえ、そんな、今日はうちの若い者が失礼しまして・・・先日も手違いでとんだ事をと反省しております。」

「長いお付き合いでしたけれど、あからさまな贋物を渡されてはこちらもおたくを信用するわけには参りませんし、道明さんへの売買の話もきれいに済んだわけではありませんよね?お引き取りください。」

「蒼さん、お怒りはごもっともです。うちも道明が持ってきた品がそちらの品とは露とも知らずとんだご迷惑をおかけしました。
今日はほんのこれはお詫びの品です。」

そっと差し出された封筒を迷惑そうに受け取った瞬間蒼の顔色が変わる。

「こ、これは!!!」

「ちょっとしたつてがありまして是非蒼さんにと。それからこちらも。」

差し出された箱を開ければそこには小千谷縮の着物が二枚。

夏の着物は冬に織られて、そうして問屋に届くもの。
越後の小千谷縮は夏に涼しく汗をよく吸い、肌にやさしいという、さらりとした感触。
この百貨店で何枚か着物を誂えている蒼のサイズはもう知られたもので、恐らくは返品商品のお詫びにとあれから誂えられて品物であろう。

「今年反物を見に行った時に蒼さんに似合いそうと思いまして。
 どうかこれはわたし個人からのプレゼントですので貰って下さい。
 それからずうずうしいのですが、また当社とのお付き合いよろしくお願いします。後日またお伺いしますので。」

にっこりと食えない狸親父の顔で言えばしょうがありませね、と困った顔で頷く蒼に驚きつつも、狸親父こと徳野の方をみれば、好々爺の顔で微笑まれる。

「坊ちゃんははじめましてですね。徳野兵庫と申します。」

丁寧に差し出された名刺を受け取って、はあ、と頷けばでは、と深々と頭を下げた徳野を見て、伊達も月と話を切り上げ頭を下げた。

「では夜分失礼しました。」

そういって去ってゆく二人の背中を見ながら蒼が玄関を閉めて明かりを落とし、台所へと戻ると、三人は椅子に腰掛ける。

「蒼、ああ、小千谷縮ね。へえ、いいものじゃない。私は伊達さんご推挙の和菓子と、草履。」

ふふ、と蒼が笑って差し出した封筒を月があければそこには特別観覧席、とあり八雲が首を傾げれば月は声をあげた。

「凄い!奮発したものね!絶対に行きましょう!」

「あの・・・それってなんですか?」

「これはね、戦国時代の合戦を再現したイベントの特別観覧席のチケット三枚!さすが○○屋だこと!」

蒼が目がなさそうなものを差し出すあたり憎いというものか、八雲はしかしこんな事で懐柔されていいものかと思えば月が八雲の鼻を指先で弾いた。

「馬鹿ね。これでもう馬鹿な真似はしないはずだし、向こうもこちらが必要だってわかったからいいの。ま、詫びに来なければ来ないでいいのだけれどね。」
「そう、取引先はあそこだけではないしね。」

ふふふ、と笑う二人と、策を弄する百貨店の徳野、さてどちらが上手か、と八雲は思うがどちらが上でも八雲の懐にも明日にも関係ないのでよしとしよう、と腰を挙げて、まあ二人が喜んでいるのでいいだろうと笑った。






「あ、そのイベントの次の日関ヶ原に寄ってもいい?」

「何故?」

「関ヶ原ドッチボール大会があるから。これ着て参加するの。」

はらりと広げられたTシャツは剣花菱の紋があり、こんなものは売っていないまさか手製かと思った八雲の視線のまま、「今時これぐらい写真屋さんでやってくれるわよ?」と事も無げに言う蒼。

「ドッチボールって蒼さんが?」

「勿論!ネット上で盛り上がってその日に各武将に別れて東西戦するの!因みに私西軍!」

ご機嫌な蒼を横に八雲は思わず立ち上がった。

「待って下さいその剣花菱紋の竜造寺はそもそも関ヶ原に参戦してませんし、蒼さんは運動音痴じゃないですかああ!!」

突っ込む声も聞こえず頭は既にイベントで盛りだくさんの蒼の部屋の閉じる音に八雲ががくりと肩を落とすと、その肩に月の手が乗る。


「ああなった蒼はもう誰にも止められないのだから諦めなさい。」

後日、ドッチボール参戦後病院通いをする蒼を手助けしながら蒼の学習能力について深く考える八雲の姿がそこにはあった。


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