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昂真秀
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女性
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見習トゥルバトール
趣味:
妄想
自己紹介:
昔は錬金術師を志していたが、現在は吟遊詩人を夢見ている。
最近は『思考するハムスター』『黒髪ロングの狸』等々好き勝手に呼ばれております。
Blong Pet
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小夜啼鳥骨董品店小噺

番外編
蒼の学生時代の本当に本当に番外編です。

それは恋ではなく、みたいな

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空は高く、クマゼミの声が耳を離れない中額に落ちる汗を拭い、思い鞄を肩にかけなおし東屋を目指す。
図書館の裏手にある見事な日本庭園の滝の奥、判り辛い所にある東屋は別世界のように静かで楓を見上げればどこか冷房とは違う冷たさに胸を撫で下ろす感覚を思い起こしながら過ごしやすい館内を出て向かう足取りは軽い。
飛び石を踏み階段を上り、小さな東屋にはいれば、いつもと違う光景があった。

「人が、居る」

何時行っても自分一人しかおらず、本をそこで読むのがお気に入りであったが、湧き上がった感情は自分だけではなかったという失望感でもなく、驚きでもなく。

そう、東屋に居たのは一人の薄水色のワンピースを着た少女が目を閉じて横たわっていた。

それはなんだか現実ではないようなふわりとした感触で胸を擽る。

ゆっくりと近寄り、彼女の口のあいたトートバックから見える本はどれも普通の少女が好むようなものではない。
自分も読んだ事がある本であった事に好感を持ち、彼女を見つめれば、真っ直ぐな童髪が揺れて、ころり、と転がる涙の雫。
緩めの袖から覗く腕や素足には痣が見える。
特別な顔立ちではない、だが。

初めて女性に対して美しいと、そう良知は思い、鞄から小さいスケッチブックを取り出すと彼女を起こさないように鉛筆を動かし始めた。

軽く色鉛筆で色彩をつけて、空を見上げると午前中だった筈が既にアフタヌーンティーの時間になっているのに驚き、スケッチブックを直す際、つい落としてしまった鉛筆の音に彼女の瞼が小さく揺れる。
あ、と思う間も無く彼女の目が開いた。
黒い、真っ黒な少し釣り目の猫に似た目であった。
何度か瞬きを繰り返しゆっくりと身体を起こすと周りを見渡しようやく良知へと目を留めると首を傾げる。
そしてころ、と風に転がった鉛筆を拾うと女性にしては短く歪な形をした指先で良知へと鉛筆を差し出した。

「貴方のですか?」

「え、はい」

用は済んだ、とばかりに鉛筆を渡し終えた彼女は自分のバックを持ち、軽く頭を下げると何も言わずその東屋を出て行く。
一連の動作を見守りながら良知は返答以外の言葉を出す事が出来ずただ黙って彼女を見送ったあと、上げかけた腰を深く降ろし息を吐いた。
汗の滲んだ掌を額に当ててその場で暫く目を閉じたまま、泣きそうな気持ちになぜ自分がなっているのか、考えつづけた。


次の日、また同じ東屋に行くとそこにはまたあの彼女が昨日と同じように目を閉じており、自分は今日に居るのではなく、昨日のままに居るのではないかという奇妙な錯覚に囚われつつも再びスケッチブックを開く。
今日は向日葵柄の青いワンピースを着ており、広がった裾が小さな風で揺れている。
昨日よりも少し多い色の入った色鉛筆を使い丹念に描いていく。
身長は多分低く、だがどこか年齢不詳。
肩口を過ぎる髪は流されたまま鞄を抱きこむように横たわる彼女を書き込み、もう少しで、と顔を上げた瞬間、あの黒い猫の目に自分が写っていた。

「楽しい?」

主語を全く使わない言葉であったが、彼女の意図する事が何故か理解できる。

「とても」

気になった箇所を書き込んで、スケッチブックを閉じると、彼女は身体を起こし、眠いのか、元からそうなのか、ぼんやりした表情で良知を見つめた。

「変な人」

「人の感性はそれぞれじゃないのかな?」

「それもそうね、私が変なのかも」

「じゃあ互いに変という事で」

思った通りの高く澄んだ声は歌えばさぞかし清廉な伸びやかさであろうと感じさせる声である。

「昨日も描いていたの?」

「うん、気を悪くした?」

「別に、趣味は悪いけれど」

そういってそっぽをむいた無表情の裏側に複雑怪奇な感情が蠢いているのがわかり、この少女は、と良知は立ち上がる。
彼女は良知が立ち上がる事により肩を強張らせ、瞬時に硬くなった表情をして良知へ向かっていたつま先が外へ向く。
腹底から小さな笑いがこみ上げてきた、それは暗い、喜びのような。
良知は彼女の三歩前で止まり膝をゆっくりと折ると、下から彼女を見上げる。

「初めまして、僕は御堂良知。君は?」

「蒼」

人なつこいのか、そうではないのか。
それすら定かではない表情で見つめる瞳を怯えさせないよう、良知は優しく笑いかけて後輩には非常に効果のある甘い声で囁くように誘惑した。

「勝手にモデルにしたお詫びにランチはどう?」

答えは否だった。
















毎日あの東屋に通って誘いを断られて三日後、東屋から見える位置に来た蒼が引き返そうと背中を見せたのを慌てて荷物を掴み、良知は走り寄る。だけれど、三歩前には止まり、ゆっくり蒼を通り過ぎ数段下の階段で足を止めて蒼を見上げると、眉を寄せた不機嫌な顔をゆっくりと見つめて鞄の中に手を入れると一冊の本を差し出す。

「これ、図書館に無いから」

タイトルを確認して、寄せた眉が驚き替わり不審者を見つめる視線に良知は断言した。

「興味あるでしょう?」

視線を他所へやり迷う様子を見せる蒼の目の前にもう一冊本を差し出す。

「九州の名族興亡史、それから元親記。元親記は絶版されている筈だけれど」

手に取ってみようという蒼の手に本を渡して、そしてもう一度。

「ご飯まだならランチ一緒しない?」

きっと読みたいならランチ一緒に、というのは彼女の嫌う事だろうから、という気持ちで言うと、そっぽを向いた蒼は小さく、持ち合わせ無い。と呟く。

「お詫びって言ったよ、勿論奢られてくれると僕の男の矜持が保てるというものだけれど」

同級生のラテン男の真似をして、大仰に手を広げて言うとそれが似合わなかったのか、はたまたおかしかったのか蒼は小さく笑い出して、わかった、と頷いた。

「美味しいものなら」

「勿論、フロイライン!」

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