続きです。
蕗田嬢のファンの皆様お待たせしました、私がこの話を書かないと蕗田嬢が進めませんでしたので、決して蕗田嬢のせいではございませんので、どうぞこの昂のせいで御座いますので・・・・平にご容赦下さいませね
読んでくださる優しい御方は下記よりどうぞ
月を見送って、三日月を肴にぼんやりとお茶を飲んでいる八雲は家の門の前で止まった車の音に立ち上がり、玄関の扉を開いた。
黄色いタクシーが止まり、そこから褐色の肌の男性が降りると、手を差し出し優雅に蒼をエスコートしている。
走り去ったタクシーの置いて行った荷物を全て男性が持つ。
は、と八雲は目を数度ままたかせ、何やら違和感を感じつつ「おかえりなさい」と声をかければ蒼は赤い口元を上げ「ただいま」と言う。
ああそうか、と。
玄関をあけ中へ入る二人の背中を見ながら八雲は蒼の洋服姿を見るのは久々だからかもしれないと思った。
ワンピースなら数度ある。だが、体格がはっきりと出るパンツスーツ姿であり、ただの黒いスーツではなく、中国刺繍の施された艶やかな美しい洋服であるせいか。
黒く真っ直ぐな髪を外国人のイメージする日本人そのものの髪型で、赤と黒の蒔絵の簪二本であげている髪の解れ毛が風に揺れる。
からから、と扉を閉めてオジャマシマス、と丁寧に言った男性の声が低くだが優しい甘さを滲んでいるのに八雲はこの人はなんなのだろう、と首を傾げた。
リビングに荷物を置いて、台所に向かった蒼は八雲君、悪いけど、とコンロをつける音と共に顔を出し、いつもの、先刻見た八雲の知らない大人の女の顔ではなく、ひょうきんな優しい笑顔だったので、はいなんでしょう、と素直に返事をする。
「客室の準備をしてくれないかな?泊まってもらうから。
で、言ってた件だけれど、明後日の朝駅で待ち合わせよ、準備していてね。一週間分。買い物があるなら明日行くから考えていて頂戴。昼過ぎからなら行けるから」
「わかりました」
リビングを背に歩き始めた八雲の背に、男性の視線がつきささり振り返ると、軽く手を振られた。
褐色の肌の内側の掌は大きく白く、軽く会釈をするとまばゆいばかりの白い歯が見えて不思議な気持ちになった。
「アレックス、あの子は私たちの弟同然なのだから手を出しては駄目」
ことり、と置かれた緑茶と練り菓子に両手を上げ感嘆の意を示し、アレックスと言われた男はにっこりとわかったよとお茶に手をつける。
「うん、美味しいね。向こうで食べる日本食も日々進化していると思うけれど、こうして日本で食べるものはやっぱり美味しい。なにより緑茶に砂糖が入っていないからね」
「それはまあ、向こうの趣味もあるでしょう?NYの人達ははっきりした味を好むから」
「まあね。ああこれも美味しい。流石蒼だね。一応護衛でついてきたけど、それから先は一人で大丈夫かい?」
「ええ。あの国から出た時点で大丈夫だとは思うのだけれど。でも貴方のお陰よ、感謝してるわ」
「蒼からの感謝を受ける事が出来るならば苦労も全て水の泡、だっけ?」
「無理に難しい言葉を使う必要はないのに。水の泡は違うわねえ、うーんひとしお、かな?」
「ひとしお!」
アレックスは手元にある手帳を取り出して、一塩、と書き込んだ。
それを訂正しながら、久しぶりだと呟いたアレックスに何が、と蒼が問う。
「こうして来るのは。前は翁がいたから。彼はこんなに可愛い蒼と一緒にいるのにあいかわらず足厳しかった」
「懐かしい話ね」
そっと庭の月を水面に見ながら「足厳しいじゃなくて、手厳しいね」と訂正を再びいれて、二人は声を揃えて笑い出した。
お茶を飲み終わり、差し出されたお猪口を受けると、「かたじけない」と注がれた酒を受け、ゆっくり飲み干すと所で、とアレックスが足を組む。
「彼、八雲君も連れていくのかい?」
「ええ、他にも居るのだけれどね」
「危険だろうに」
「貴方が骨を折って下さったから大丈夫でしょう」
「折ってないけど」
「ものの例え。でも・・・これで多分カタはつくと思う」
にやり、と笑い蒼はアレックスのピンとはったスーツへ手を伸ばすと、黄色いネクタイを手前に引いた。
「私の昔の咎」
吐息が触れ合う程の距離で囁かれた言葉には甘さの欠片もなく、アレックスは溜息をつく。
「御堂がらみかい?彼も厄介な男だから。彼は君を狙っているよ、蒼は苗字を御堂にしたいのなら別だけれど」
「言ってなかったかも」
「何が?」
「私、前は御堂だったの」
背後で激しい物の落ちる音がした。
振り返れば八雲があんぐりと目と口をあけて立っている。
蒼がアレックスを誘惑するかのような体制のまま八雲の少年のような顔を見て一言。
「言ってなかったかしら」
「聞いてません!」
真っ赤な顔をした八雲が言う言葉にアレックスが大きな声で笑った。
何やら見てはいけない現場に踏み込み更に聞いてはいけない事を聞いてしまったのと恥ずかしいのとが綯交ぜになっていたたまれない顔をする八雲をアレックスの向かいに座らせると、蒼は星野茶と利休饅頭を差し出した。
「ごめんなさいね、今回のは、まあ・・・御堂家のお家騒動の一環と考えて欲しいのだけど。法律等の事は私には対処しきれないけれど、御堂家というのは古い一族で、本家が二つあるという奇妙な家なの。
それで、一つに月に行ってもらっているのね。私が嫁いでいな方の家へ。勿論身内至上主義な所がある家だから単身で行っても話にならないから御堂義弘さんとご一緒してもらってるのだけど。まあ彼は私の元義理の弟だし。で、私は月が行っていない方へ行く事になっているの。」
「あの、因みになんで・・・」
「神様がお怒りだから」
突拍子の無い言葉に八雲がはあ、と溜息のような返事をするが、それを気にもせずそういえば紹介もしていなかったわね、と蒼がアレックスの方を見る。
「八雲君ですね、私は美術商のアレックス・バレルといいます。こちらのお得意さんです、よろしくね」
ウィンクをしながら魅力的な笑みと差し出された名刺を受け取ると、力強く握手をされた。
不快感の一切感じられない、むしろ安堵感と親しい感情を感じさせる握手に八雲はこの人が蒼さん仲良い人か、と妙に納得する。
「本拠地はNYだからいつでも遊びにおいで」
「有難う御座います」
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